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ヒートショックと温度バリアフリー

横山

 暖かだった秋から、急に冷え込んで来ました。
どこのお宅でも、リビングや茶の間では、コタツやストーブ、エアコンなど暖房器具がしっかり働いていると思います。

が、その温められた部屋から、廊下やトイレ、洗面、風呂場へ1歩出ると寒くてふるえてしまいます。
私もリビングからトイレへ行く時など、気が付くと小走りになっています。


実は、家の中で温度差のある状態は、とても怖い事なんです。
来年早々着工予定の奈良県のA様は、昨冬の冷え込みの強い日に、お母様をお風呂場で亡くされました。享年73才だそうです。

そのお宅は、築36年と年数こそ経っていますが、構造的にもしっかりしたお宅でした。
でも、断熱という概念の無い頃の建物なので、確かに家の中が寒いのです。

まして、タイル張り、在来工法のお風呂場は本当に冷たく寒かったと思います。


検死に立ち会った警察の方から、「お母さんは熱いお湯がお好きだったんですか?」とたずねられたAさん、最初意味がわからなかったそうですが、お湯の温度が50℃に設定されていたそうです。

50℃設定のお湯でも大丈夫な位、お風呂場が冷えて寒かったんですね・・・、私も正月に帰っても寒くてお風呂に入るの嫌でしたから・・・」と仰っていました。

一人暮らしのお母様に、「お風呂場だけでも、ユニットバスにリフォームしたら?」と何度も薦められたそうですが、「触らんといて、私が死んだら好きにしたら良いから・・・」と頑として取り合われなかったそうです。

「自分のために贅沢ができひんかった人やから、一緒に住むからリフォームしよう。と言えば、誰に対する言い訳か分からへんけど言い訳が出来て、してくれたかな〜。」とAさん。

寒いところから熱いお湯に入り、急激な温度差で血圧の上昇と低下が短時間に起こり、一瞬、失神されたお母様の死因は溺水だったそうです。


「厚生労働省人口動態統計平成18年」によると、家庭内事故死では、「転倒・転落」が2,260人「溺死・溺水」は3,632人と家庭内事故死全体(12,152人)の約半数を占めています。

そしてそれは、暖かい暖房された空間と、暖房されていない冷え込んだ空間を行き来して、急激な温度差を体感する事でAさんのお母様に起こったような、“ヒートショック”と呼ばれる、急激な血圧変化に起因とするものが、多くを占めていると言われています。

家庭内事故死の4人に3人が65才以上の高齢者なのも頷けます。

家の中の段差を無くしたり、手すりを付けたりする、もうすっかり市民権を得た“バリアフリー”工事をする事で、転倒・転落の数を少なくする事は出来るでしょう。

でも、家の中に温度差があれば、ヒートショックが起こり、トイレや風呂場での転倒を防ぐ事は出来ないのです。


温度バリアフリー”という言葉をご存知ですか?

家の中の段差を無くし、障害者や高齢者が自由に動けるようにしようというバリアフリーと同じく、ヒートショックで倒れたりする事の無いよう家の中の温度差を無くそうと生まれた言葉です。

池田住宅が“外断熱”(外張り断熱)に取り組み始めたのも、更に“地熱住宅”を取り入れたのも、『家中どこでも同じ温度にして、住まれる方の体にかかる負担を軽減したい』という思いからです。

家の中の温度差が原因で、お母様を亡くされたAさんは、
「どうすればそれを防げるか?」とインターネットで探して私共にご相談下さいました。

現在高校生のお嬢さんに「数十年後、同じ思いをさせたくない。」と仰るAさんに、突然お母様を亡くされた悲しみの深さと、ヒートショックの怖さを経験された重みを感じました。

「私にお金を残そうと思うより、もっと自分が快適に暮らすために使って、長生きしてくれたら良かったのに・・・」とも仰られ、私も同じ年代の親を持つ1人の娘としてとても共感を覚えました。

 ここで、ヒートショックを起こさないために、すぐできる事をいくつかご紹介します。

◎洗面所に小さな暖房器具を置き入浴の前に洗面所を温める。
 狭い場所なので、器具が転倒しない よう壁掛けタイプなどが理想です。

◎“シャワー給湯”はシャワーを使ってお湯を張るだけで、15分で10℃浴室内を温めるというデータ
 があるそうです。
 入浴前に、浴槽のふたを開けておいたり、ご家族が入った後、浴室が温まってから、血圧の高い
 方・高齢者は入るようにする。

◎お湯の設定温度は、41℃以下にする。
 風呂場でのヒートショック事故の死亡者は41℃をボーダーラインに増加が見られるそうです。

◎トイレに小さな暖房器具を置く。(器具の転倒にはくれぐれも気を付けてください。)
 暖房便座だ けでも結構有功です。窓にカーテンを付け、窓からの冷え込みを防ぐのも効果が
 あります。


毎日入っているお風呂で、死ぬなんて誰も思ってないけど、伯父の知り合いもご家族と住んでいらしたけどお風呂で亡くなったそうで、結構身近にあるんですね。」とAさんが仰っていました。

今回、ヒートショックの怖さをお伝えしたのも、実は、池田のおばあちゃんが3年前に、
現場監督、軒のおばあちゃんも冬場お風呂場で亡くなっており、Aさんが仰ったように身近に起こる事を私達も実感していたからなんです。

実際、平成18年の家庭内事故死の総数は、交通事故死よりも3,104人も多いんです。

これから冷え込んでどんどん寒くなる季節、
“自分は大丈夫”ではなく“誰にでも起こり得る”と思って気を付けたいものです。




家庭内事故ってご存知ですか?

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「家庭内事故」という言葉をお聴きになったり、新聞・雑誌紙上でお読みになったことはありますか?実はほとんどの方が「家庭内事故」の現状を知りません。

しかし「交通事故死」については、マスコミも力を入れて報道しています。

最近では飲酒運転によるひき逃げ事故が多発したり、青信号の交差点で運転者の不注意による悲しい事故が相次いで起こっています。

今後、警察や自治会が一緒になって「交通事故死」を減らすための運動は活発になっていくことでしょう。

交通事故死者数を見てみると、ピーク時の昭和45年の24,096人から減少し、平成13年では12,378人まで少なくなってきています。
マスコミや行政の努力があれば、今後「交通事故死」は減少していくことが期待できるのではないかと思います。

 

一方で、「家庭内事故死」は、むしろ、最近、増加傾向にあります。

平成13年では、「家庭内事故死」総数は、なんと、11,268人にまで増えています。 平成13年における「交通事故死」「家庭内事故死」の総数に大きな違いがなくなってきています。

それなのに、マスコミが大きく報道しているところをほとんどみかけません。マスコミだけではなく、公共的な機関が何か具体的な対策を打ち出していることも見かけません。

 

なぜでしょうか?

 

勝手な推測ですが、「交通事故死」においては、加害者被害者がはっきりしています。 つまり、原因が明確になっています。 そのため、対策も立てやすいのでしょう。

一方、「家庭内事故」においては、加害者が明確にならないのです。

つまり、「転倒」という原因によって死亡した場合、あくまでも「自分自身が転倒したため」であり、誰かに突き倒されたわけではありません。 そのため、具体的な対策も立てにくいのでしょう。 しかし、よく考えてみると、そこ(家庭内)には、「転倒」するに至る【原因】がなにかあるはずです。

 

私たちは医者ではありません。統計学者でもありません。
家づくりを行っている工務店です。

したがって、住宅内に潜む「根本的な原因」を学術的に解明したいわけではありません。 しかし、住宅に関わる者として、「家庭内事故」根本原因を追究していく責任はあるのではないかと考えています。

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そこで、全国の小さな工務店みんなで知恵を出し合い、家庭内事故に関するガイドブックを作りました。

『ヒートショックを起こさない温度バリアフリー住宅とは?』(A5版 48ページecoハウス研究会著)です。ご希望の方にこのガイドブックをお送りしています。

本を書くことは本業ではありませんので、文章はうまくありませんが、家庭内事故死の現状ヒートショックについてのこと、温度差のない家づくりを成功させるための秘訣をこのガイドブックには詰め込んであります。

 

正直、初めて読まれる方にはショッキングな内容ではないかと心配になりました。ですが、家庭内事故の現状を知っておいて頂くことは、家づくりを考える全ての方にとって無駄ではないと考え、あえて包み隠さずのせてあります。

 

昨年、近くに住んでいた祖母を家庭内事故で亡くしました。90歳を超えていましたので大往生と言えるのかも知れませんが、もし安全な家に住ませてやることができていれば・・・、と考えさせられました。

工務店を経営している私でもまだまだ認識が甘い、それが家庭内事故の恐ろしさなのです。

少しでも多くの方に 家庭内事故死の現状を知って頂き、家づくりの参考にして頂ければと考えています。

 

  有限会社 池田住宅建設 取締役
池田 歩

 

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